Are you satisfied now ?
少し、乱暴に扱われたせいで腰が痛い。
はじめた時にはいつも通りだったから、途中で何か、彼の気に障ることをしてしまったらしい。
アスランは、ベッドに突っ伏して、ぼんやりと頭を巡らせた。
他の男の名前を呼んだりはしなかったと思うし、何度か小突いたりもしたけれど、そんなことはいつもしているし。
他に、何かシンを怒らせるようなことをしたのだろうか？
聞きたいけれど、ああ、眠い。
起きるまで、俺、覚えていられるかな・・・・
眠らないよう努力するという選択肢を、アスランは、はなから放棄している。さっさと夢の国へ旅立とうとしていると、唐突に、背中に圧力がかかった。
心地よい重みと、体温。
ただ、このまま眠るには、少し、重すぎる。
ちょっと、寝ていられない。
「シーン。おーもーいー」
上に乗ってきた恋人を、押し退けようと手を伸ばす。
しかし、完全にうつ伏せてしまっているので上手くいかない。
「どけよ、おいシン」
このまま起き上がればどくだろうが、腰が痛いのであまりしたくない。
「シーンー」
仕方がないので、後ろ手に頭を撫でて、無理に首をひねって振り向くと、膨れ面のシンと目が合った。
「何、ふてくされてるんだよ」
ぽんぽんと頭を叩くと、嫌がるように首を振る。
「・・・・アスランさん、大きいですよね」
「は？」
それは当然、アスランの方が、身長も体重も勝っている。
しかしそれは、２年の歳月の違いだ。
あと２年経てば、逆転している可能性が高いと、青年は本気で思っている。
・・・・・そこまで考えて、シンの言い方に引っかかった。
大きいって。
ああ、そうか。
その意味することに思い当たり、アスランは、思わず吹き出していた。
男同士の話で、こういう時の「大きい」が、何を指すのかは決まり切っている。
「だって、お前、まだ１６だろっ・・・・」
背中にシンが乗っているので、息ができなくて、もの凄く苦しい。
苦しいけれど、でも、もの凄く、可笑しい。
「笑わないで下さいよ隊長・・・・って、ほんとにあんた笑い過ぎっ！」
シーツを掴んで、ひいひい言いながら笑っているアスランの頭を、シンはぐいぐい押さえつけた。
こんなに笑ってるこの人見たの、初めてだ。
でも、笑っている理由が気に食わない。
「だって、あんたのが大きいって、なんかすっごくシャクなんですけど！」
「あ、と、２年待てよ、２年。俺だって、大きい方じゃないんだから、すぐ、追いつくって」
「それって、俺ちっちゃいってコトですか！」
「ちっちゃ・・・・」
アスランはそれ以上言葉にできずに笑いこけた。
こんなに笑ったのは久しぶりだ。
「だから・・・笑うなってば！」
シンが本格的に怒りだしたので、なんとか笑いを止めようと、アスランは必死になった。
「ご・・・めん、ごめん、シン」
もう一度手を伸ばして、頭を撫でようとして、空振る。
「アスランさんっ」
「ごめん、ほんとに」
押さえつけられたまま、笑い過ぎで出た涙をシーツにこすり付けて。
「だから・・・お前、まだ１６だろ。これからいくらでも大きくなるって」
「俺は今！あんたを満足させてやりたいんです！！」
そのセリフが、またアスランのツボに入った。
「そんな・・・っ、おまえ、ばか・・・・」
「笑うなっ！」
頭を抱え込まれて、耳元で唸られる。
息は相変わらず苦しいけれど、髪を掴まれる感触と、低く抑えられた声が、むしろ心地良い。
可愛い。
こいつ、ほんとにもの凄く可愛い。
「お、大きけりゃいいってものでも、ないぞ。でかくても、痛いだけってこと、あるし・・・・」
「ダレですかそれっ！」
ああ、ヤブヘビだ。でも、もうそれすらも可笑しい。
「だれでもいいだろ。いいから、お前どけよ」
苦しいから、と、少年をどかそうとするけれど。
「嫌ですっ」
ぎゅうっ、と、押さえつける力を強くされた。
そんな様子さえ、可愛くて、可笑しくて。
また笑ったアスランは、腕を伸ばして肩をひねり、今度こそ、シンの頭をつかまえた。
「シーンー、これじゃ、キスもできないだろ」
綺麗な涙に潤んだ瞳が、優しい笑みでシンを見上げる。
キスなんかでごまかされるか、と思ったけれど、それでも、アスランのキスは欲しかったから。
シンはやっと、その背中から体を浮かせた。
「まったく、お前は・・・・」
体を返したアスランは、ほら、とばかりに腕を広げ、その中に倒れこんだシンを、優しく抱いて、キスをした。
「可愛いよなぁ」
「ナニがですか、ナニがっ！」
「いや、そっちの話じゃないから」
また笑いの発作が起きそうになり、アスランは慌てて、腹に力を入れてそれを止めた。
「俺は十分、満足してるよ」
本当、こんなに可愛い恋人に、満足しないわけがない。
「でも・・・・」
まだ不満げなシンに、また、優しいキスをして。
アスランは、ゆっくりと、深く、言葉でない気持ちを伝えてやった。
それなのに、少年はまだ、口を尖らせている。
「だって俺、まだそんなに上手でもないし」
「じゃあ、これから今以上に満足させてもらえるってことかな。期待してるよ」
「・・・・・」
「・・・・・・・・」
黙ってしまった少年に不穏なものを感じて、アスランも、黙る。
「シン、俺はもう眠いんだが・・・・」
そう言って、毛布を掴んだアスランの手をつかまえ、シンは真剣な面持ちで、翡翠色の瞳をのぞき込んだ。
「だって、大きさもテクもまだじゃ、後は数で勝負するしかないじゃないですか」
「いい！勝負しなくていいっ！！」
叫んではみたけれど
うつ伏せでも、仰向けでも。結局、乗られている方が不利だった。
その晩、アスランは、彼が早く成長してくれることを、切に、願ったのだった。
・・・・いろんな意味で。